深紅に染まりしはの籠











第五十話


※とても残酷な描写があります。















もう生きていても辛いだけと思い、自殺をしたくて1回だけ・・・自分の首を思いっきり切ったが、死には至らなかった。
多分クェルの術が効いているせいだろう。
それにすぐ戻ってきたグリューラに発見された為、大事には至らなかった。

勿論それはクェルの耳にも入り、いつもの刃物を使った行為ではないが体中を殴られ蹴られた。
この傷が治るまでは鎮痛剤を貰えず、痛みに悶える菊代にグリューラが辛そうな表情をしていた。

どう足掻いても死には至れない。


そう察した菊代の心はもう壊れる寸前だった。


そんな心身ともにぼろぼろな状況の時。
それは起こった。

「聖女様、クェル様が自室にと・・・」
「・・・え?」
ノックをし、青い顔で部屋に入ると震える声でそう告げた。
クェルが菊代に用があるのは唯一つ。
それは今まで全てこの部屋で行われていた。
それに、それ以外で尋ねてくることは、ましてや自分の部屋に呼び出すなんてことは・・・無かった。

「な・・んで」
「私にも分かりません、自室に招くのは今までで私も初めてで・・・」
青い顔でそう伝えるグリューラの表情を見て、余計に動揺する。
・・・何が・・・何が始まるの。

菊代はゆるゆると恐怖が体に侵食し形にならない嫌な予感を感じた。





グリューラに連れられるまま初めて部屋を出ると広々とした廊下に出た。
二メートル程の広さがあり、大きな窓からは温かな日差しが差し込んでいる。
前を歩くグリューラに付いて行く。


どこに連れて行かれるのか、今度は何をされるのか。
もう痛いのは嫌だ。
数え切れないほどの不安が押し寄せて菊代の思考をぐちゃぐちゃにする。
自己防衛なのか、最近本当に感覚・感情が鈍くなった。
そんな菊代でも、クェルの手に掛かれば奥底にある鋭敏な感情や感覚は引き出され扱われる。


あっと言う間に部屋に着き、重厚な作りの扉の前に立っていた。
「旦那様、聖女様をお連れ致しました」
「ご苦労下がれ。どうぞ、お入り」
ノックをするとドアの向こうからクェルの声が聞こえた。
声を聞いた途端、ぞわりと肌が粟立つ。

グリューラは菊代に礼をすると後ろ髪を引かれる思いで侍女が待機する部屋に戻った。







菊代は深呼吸するとドアノブに手を掛けた。

「しつれい・・・します」
「やぁ、自室に呼んだのは久しぶりなんでね。早く楽しみたくて待ち遠しかった」

広い室内に入った。
ふわふわな絨毯の上をゆっくりと歩き、部屋の奥に立って手招いていた。
そこで菊代は疑問を持った。



菊代の部屋の床が石で、絨毯も何も敷かれていないというのは、血で汚れたとき掃除しやすい為と安易に想像できる。
これから想像していた行為は多くも少なくも血を伴う。
なのにこんな毛足の長い絨毯が敷いているのは変だ。

手招かれるままゆっくりとクェルに近づく。
鈍くなっていた感覚と感情が自分の意思と反して昂ぶり鋭敏になってゆく。

2人の間が1メートルほどになるとゆっくりと歩く彼女に焦れてか手を伸ばし腕を掴む。
無抵抗の菊代を引っ張り、奥の壁に歩み寄った。

「アラ・ギ・シィリエラチーオ。オル・リーラ」
何の変哲も無い壁の前に立ち、指先を触れると意味不明な言葉を呟いた。
すると壁に薄く線が入り、ごりごりと横にずれる。



現れたのは薄暗い階段。
奥の方は完全な黒に染まっておりどのくらい深いのかは分からないが、壁にある松明の炎が微かに揺れているのが見える。

ひんやりとした空気が頬を撫ぜる。
生臭い湿った何とも言えない微かな悪臭を乗せて。





クェルは菊代の腕を引っ張ると降りてゆく。
一段一段の差が大きく、薄暗い為気をつけないと転がり落ちてしまいそうだ。
階段の石壁には等間隔で松明があり、赤い炎が揺らめいている。

お互い一言も喋らないので居心地の悪い沈黙が降りる。
まぁクェルと喋っていても何をしてもしなくても、一緒に居るだけで居心地は悪いが。

長いと思っていた階段は思いのほか短く目の前に重厚な作りの扉が現れた。
直ぐ傍にある松明の火が赤黒い扉の色を一層赤くさせて浮かび上がらせる。


クェルはその重そうな扉を指先で軽く押すと中に入った。

ぼんやりとその様子を見ていた菊代は突然放り投げられて痛みで顔を歪ませる。
早速切り刻まれるのかと・・・体を強張らせたが一向に痛みはこない。
恐る恐る顔を上げるとそこには誰も居なく、慌てて周囲を見渡すと部屋の奥の壁、入り口と正反対にある壁の前で何かをしていた。



階段を下った先はどうやら一つの広い地下室らしく、四方にある松明がぼんやりと石で出来た息苦しい室内を照らしていた。
広さは学校の教室程。

澱んだ空気は湿気が多くねっとりと肌に絡みつく。
それと凄く埃と・・・生臭い。

息をする度に体の中が汚れるような錯覚が引き起こるほどここの空気は・・・よくない。


目を凝らしてクェルを見つめる。

(・・・なに?)


広い室内に反して少ない松明の数。
何をしているのか見るのにはあまりにも光源が少なく、クェルの背が邪魔で見えない。

殆ど暗闇といっても過言ではない不気味な部屋で嬉しそうに鼻歌を歌いながら何かをするクェルは酷く怖ろしげだ。


「よし。まだ平気だ。リット・リーラ」
嬉々として言うと背筋を伸ばしぱちんと両手を叩き言う。
すると四方の明かりが強くなった。

ぼっと勢い良く燃え火の粉を散らす。


「っ!!」


クェルが横を向いたのと明かりが強くなった為見えたソレ。
壁からは手枷が先についた鎖が壁からぶら下がっていた。


「さぁ、こっちにくるんだ」
「・・・ぃ・・・・ぃや・・・」

がたがたと震えて体が動かない。

「しょうがない子だね。どれ私が運んであげよう」
「い・・・いやぁ・・・」

楽しそうに入り口近くで倒れていた菊代の首根っこを掴むとドレスが引きちぎられるのではと思うほどの力で引っ張られ連れて行かれる。
これから行われる行為を想像すると抵抗する気も起こらず、瞳から涙が零れる。

「ふふ、何年ぶりかな。この部屋を使うのは。大抵の娘は心が弱いからすぐ使えなくなるけど今回はとっても・・・強い。遊びがいがあるね」

無抵抗の菊代を壁まで連れると鎖の長さを調節する。
丁度良い長さになると腕を真上に引っ張り膝立ちにさせる。
そして手際よく両方に手枷を嵌めると埃を払うかの様に手を叩いた。

壁には未だ4〜5本の鎖と枷が垂れているが・・・考えたくない。

「じゃあ・・・さっそく」

今気付いたが横の壁には様々な・・・剣がずらりと飾られていた。
そのうちの一つを・・・剣先が碇のような形の大剣を持つとゆっくりと痛みを倍増させるかのように臍の上辺りを刺してゆく。


「い・・・ぎゃああああああああああああああ!!」

痛い。
痛い。
痛い。
痛い。

今までの中で・・・一番、兎に角痛い。

痛いというイメージか頭に浮かんでこない。



じゃらんじゃらんと手枷が鳴る。
暴れた為背中や頭の後ろを石壁にぶつけてしまい痛い。
だがそれさえも微かな痛みに感じさせてしまうほどの痛みが体を駆け巡る。
暴れ狂う激痛に身を捩って叫ぶ。

最近は痛みにも少しだけ慣れてきていたので叫ばないことは無かったが、ここまでの取り乱しようは無かった。

「いいね、うん」
「あああああああ!!!ひっぃいああああああ!!」
剣先が見えなくなると・・・・それを捻った。
剣先は碇の様に変形していたため周囲の肉を引き伸ばし、時には千切りながら動く。

想像を絶する痛みに菊代は意識を手放した。




「あぁごめんね。痛みに耐えられやすい術を施すのを忘れていたから直ぐに気を失っちゃったんだね。ちゃんと今度は施すからね」


口の端に飛び散った血をべろりと舐め上げた。




あとがき


最近血生臭い話ばかりで申し訳ございません・・・。
あと、数話で2章は終わりの予定です。
最後までお付き合いくださいませ。
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