深紅に染まりしは夜の籠
第三十八話
薄っすらと瞳を開ける。
微かに感じる空腹感に腹を撫でる。
ぼんやりと霞む視界をもう一度閉じた。
ルルとヒュアが居なくなって一ヶ月は経った。
月は一月に突入し、深々と冷える日が続いている。
あれから、ヒュアが居なくなった台所の冷蔵庫の横の壁に背を預けたままぼんやりと一日を過ごすのが常となった。
薄着のまま暖房も点けずに一日中そこに居る。
あまりの悲しさのせいか、五感が鈍くなり食事や睡眠、排泄や風呂などの行為を疎かになるようになった。
するにしても、時間が普通の数倍も掛かり・・・菊代は相当精神的にも身体的にも疲弊していた。
投げ出した四肢は力なく、体を壁に預け小さく開いた口からは耳を澄まさないと聞こえないほど微かな呼吸の音が気こえる。
食事を疎かにしていたため体力も減り体重も極端に減少した。
今の菊代を見たなら・・・人が死んでいるのではと思うほど、その瞳には生気を感じられなかった。
ヒュアが居なくなり最初の2週間ほどは戻ってきてくれるのではと、心のどこかでは思っていた。
だが一ヶ月もするとその望みも消え、菊代を支えていた二人が居なくなり前より酷い状態に陥った。
二人が居ない世界は味気なく、モノクロに見える。
あの愛おしい二人が居ない世界なんて・・・生きている価値が見出せない。
気付いたら手には包丁が握られていた。
そして半分無意識のうちに首筋にそれを宛がう。
少しだけ力を入れて下に引くと、鮮明な痛みが全身を駆け巡りさっと歯を肌から離す。
反射的に首筋を触れてその指を見てみたが、血が付着していないので傷はないのだろう。
死にたい。
そう思って実行したのに些細な痛みで躊躇う。
死ぬ覚悟も出来ないのかと自身を嘲笑う醜い笑みを浮かべる。
瞳をそっと閉じてあの愛おしい二人を思い浮かべることしかできない現実に、もう手が届かない存在だと思い知らされる。
そのままいつもの様にゆっくりと全てを忘れられる睡魔に身を委ねた。
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