誓契

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番外編



「理解できない」
「・・・え?」
じっとその飴色の瞳はテレビに食い入っている。
燃え上がる怒りの炎が揺らめくように瞳が揺れていた。

「何故・・・戦をもとにした娯楽があるのですか?
戦は人の命が失われてゆく。
人との関わりはその人の数倍。
その、倍の数の憎しみ、恨み、嘆き・・・・悲しみ涙を流す人がいるんですよ」
「・・・ただ単に楽しむだけ・・・その理由だけで見ているわけじゃないんだよ。
この国には色々ないざこざはあるけど・・・ヒュア君が目の当たりにする様な戦は無い」

「だからなぜ!!」
目を吊り上げ、歯を食いしばる。

無表情は悲しいことだけど。
怒りは大切な感情だけれども。
やっぱり大切な人には笑っていて欲しい。

「だから、だよ。この国の人たちは戦を知らない。
戦の凄惨さを知らない。だからこうやって・・・映像や書に記しその惨さを伝える。
二度と過ちを繰り返さないように」

「・・・・ならあれは何ですか。人を殺して楽しむ遊びは・・・」
「ゲーム・・・ね」
「あれを楽しんでやっている人間がこの国には五万といる・・・信じられない。
人を殺して・・・何が楽しいんだ。
それともそれも戦の酷さを知らせる為の方法ですか」
汚らしい物でも見るような目でテレビと菊代を見る。
酷い嫌悪を感じているのだろう、この世界の私にも。
これが価値観の、世界の、環境の差なのだ。
それでもそういう非難する目で・・・見ないで欲しい。

「・・・ヒュア君、外を歩いていたら虫が居たよ」
ヒュアの方に向けていた体をソファに預ける。
力を抜けば背中が背凭れに沈む。
「急に・・・なんですか」
「その虫を・・・踏み潰しちゃった。ヒュア君はどう思う?」
「・・・別にどうとも思いませんけど?」
「ね?その虫にだって家族とか友達が居るんだよ」
「いちいちそんなこと気にしていたら生きていけませんよ」
「ほら」
「・・・は」
「いちいち気にしてたら生きていけない。
ほら、そうでしょう?
あれは現実じゃなくて、空想上のお話。
空想にいちいち気にしていしてもたら無理でしょ」
「空想だった・・・現実じゃなったら何をしてもいいのですか」
「一概にはそうは言えないよ・・・この国には戦が無いの。
ヒュア君は普通に見ているかもしれないけど、あの大きな剣とか鎧とか、斧とかも普通なら見れないの。
人間は無いものを求める。
それは本質のひとつなのよ。
だから今の心地の良い生活が成り立っていると言っても過言では無い。

平和だからこそ。
戦がないからこそ、そんな不謹慎なことができるんだよ」
「理解・・・できない・・・・できない」

美しい瞳には不釣合いな激しい嫌悪が現れていて菊代を睨み付けていた。

元帥としての教育を叩き込まれているヒュア。
勿論戦場を見たことがあるのだろう。
戦禍に巻き込まれたことだってあるのだろう。

なのに、ここには娯楽として扱われる世界。

命を懸けて戦をしている人の冒涜行為なのかもしれない。


最近少し仲良くなってきたと思ったけど・・・。
やはり壁は無くならないのだ。













あとがき


ずっと前から書いていて、早く更新したかったお話。
まだ二人がそんなに仲が良くない頃のお話。
きっとああいうゲームや映画はヒュアにとってはとっても不評だろうと。
戦を記録でしか感じたことの無い菊代には到底知りえないもの。






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