誓契

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番外編



お題 リライト
10のちいさな幸せ より

----お気に入りの雨傘----







その日は雨が降っていた。
雨で煙る薄暗い景色をぼんやりと眺めながら傘の柄を握りしめる。
昨日の夜から雨音がしていたのでずっと降っているのだろう。

過ぎ行く家々には明りは点いておらず、今がどれだけ早い時刻なのかが窺える。
あと2時間もすれば人々は起き出し、今歩いている静謐な空間も消え失せるだろう。

道路の端々に大きな水溜りができていて、雨粒で起こる波紋のせいで映った景色が揺らめいている。

まだ過ごし易い気温が続く日々だが、雨のせいか早朝のせいか・・・七分の袖から除く腕が寒かった。

「はぁ」

溜息を吐いて俯く。

まだ眠っているであろう男の子のことを考える。


人との関わりが苦手なくせに男の子を預かるなんて。
しかも、自我がはっきりとしてきて、色々と自分で考えられる年頃。
些細なことでつっかかり、面倒事を起こす年頃。

と思ったが、驚くほど落ち着いていて物分りが良い。
というか良すぎる。

随分と酷い生活だったのは分かったが・・・。

それがあの性格を作り上げてしまったのだろう。

「っつ・・・」

突然胸の痛みを感じて立ち止まる。
唇を噛みしめ、鉛を埋め込まれたような胸の重さと鈍痛に顔を顰める。

どくどくと煩い心臓。
暑くもないのに汗を額に滲ませる。

言い表せない不安がどっと胸に広がり息が詰まる。



冷たい朝の空気を肺の奥まで吸って落ち着くと、霞みかけた思考がクリアになった。
頭を手のひらで強く叩き、そのままぐしゃりと髪の毛を握り込む。

「ふー」

今度は空を見上げる。

傘の向こうに見える空は暗い色。
遮るものが無くなった為、目に雨粒が入り細める。

「でも・・・とても良い子なのは・・・違いない」

無表情だが、極稀に見せる表情は素の彼だと思っている。
気遣いもできるし、とてもいい子。
それに・・・何より一緒に居て疲れない。

こんな存在今亡き親以外にできると思わなかった。
大切な存在に・・・なりかけているのだろうか?

なんとなく・・・心が軽くなり、良いことが起こりそうだと思った。

そこで目を丸くした。


「・・・前までは・・・」

小さく呟くと顔に掛かった雫を手の甲で拭った。
汗も混じったそれは滴り、袖を湿らす。

小さく染みになった袖を見て目線だけ上にする。


落ち着いた水色の傘。
5つの花弁を持つ濃い色の花が所々に散らされたシンプルながら可愛らしい傘。

一回だけ傘をくるりと回すと雨粒が飛び散り、どんよりとした雲間からの光が映った水溜りが揺れた。













あとがき

今まではネガティブになってしまったら落ち込んだまま、自然と消滅することが多かったのだけれど。
自然と思考が良い方向にいって終わっているのに気が付いたんですね。

あまりお題とは関係ない内容ですが気にしないでください・・・。

もしよかったらどうぞ↓












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