誓契

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番外編



お題 リライト
10のちいさな幸せより

---やっと買えたCD---




ヒュア視点












菊代さんに買ってもらった教材をちまちまとやる。


この『しゃーぺん』とかいう筆記用具の不思議な感じにも、やっと慣れてきたところだ。


ヒュアの世界では鉛筆は無く、勿論シャーペンも無い。

特別な植物から採取した液体を鳥類の羽の先に付着させ、文字を書いていくという物が主流だ。
この『しゃーぺん』とかいう道具の様に何度も消したり書いたりは出来ない。



流石菊代さんの世界は発達している。



こんな便利な道具が普通に巷で使われているなんて・・・・・。


そんなことを頭の中で考えながらも、ひらがなをシャーペンでなぞる。
手本用の薄い色で書かれた文字の上をぎこちない線が黒く染めていく。

一通り見開きのページが終わったところで達成感の溜息を吐く。

「そろそろ・・・・かな」

菊代は買出しの為出掛けているが、そろそろ帰ってくるだろう。

次のページもやってしまおう。
とページの端を指先で抓んだその時。

玄関の扉か開く音が微かに聞こえてきた。
「ただいまー」
菊代さんの柔らかな声がするりと耳に滑り込んでくる。
ふわっ、と広がる喜の感情に戸惑いつつもその心地良さに無意識のうちに表情が緩む。







「おかえりなさい」
リビングのドアを開けて廊下の先にある玄関を見ると、どさどさと重そうな音を立てて食品が入った袋を床に下ろしていた。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
もう一度しっかりと挨拶を交えてから重いビニール袋を手に取る。
初めは申し訳なさそうに止められたが、今は何にも言わずにお礼だけ。

何だか信用してもらえているみたいでとても嬉しい。







「今日はたっくさん買っちゃった」
「良い買い物ができたみたいですね」

買った物の整理をしながら他愛のない話をする。
こういう何でもない些細なことが、とても幸せに感じることができる。
こんな環境をくれた菊代さんには感謝してもしきれない。


大きなビニール袋の底からあるものを取り出すと菊代さんは声を上げた。
「どうしました?」
「これこれ!やっと買えたのー!なかなか置いているお店が無くてさ」

菊代さんの手に握られているのは、薄い正方形の板。
板には色鮮やかに描かれた花々で美しく彩られている。

ガラスのようにも見えるが、何となく違う。

「なんですか、これ?」
「CDって言うの。これに音楽が入ってるんだよ」
「・・・え?」

この板に音楽が入っている?

意味が分からない。

音楽とは音で、でもその板から音はしないし・・・。
何かすると音が鳴る仕組みなのだろうか?


「聞いてみよっか」
菊代さんはそう言うとテレビの前でしゃがみ、何か操作している。

ぱりぱり。
しゃりしゃり。
かちっ。
ぴきっ。


そんな不思議な音が聞こえてくる。
俺が知っている音楽にはこんな音はしない筈だが・・・。


パチンとテレビの電源を入れると何か文字が並んでいる。
ただ、普通なら音がするのに、無音だ。

「はい」
菊代さんがリモコンのボタンを押した瞬間。

美しい音色がテレビから聞こえてきた。

柔らかいけれども一つ一つの音が独立しつつ、他の音と調和し・・・。
筆舌尽くしがたいなんとも美しい音楽。
思わず惚けていると菊代がくすくすと笑いながら説明してくれた。

「この薄い箱の中に真ん丸いCDと呼ばれる板が入ってるの」
そう言いながら先程の板を見せてくれた。

あの薄い板が、真っ二つに裂けている。
あれは板ではなく、とても薄い箱だったのだ。

そして、開かれた片方には真ん丸く窪んでいる箇所があり、そこにすぃーぢーとか言う板が入ってるらしい。

「すごい・・・」
「この楽器はピアノって言うの。静礼寺 あまねって言うピアニストのCDなの。ピアニストって言うのはピアノを弾く人のことを言うの」
「え、一つの楽器で奏でているのですか?」
にしては沢山の音色が絶え間無く鳴り響いている。
「そうだよ、ピアノは基本88個の音を出すことができるから」
「すごい!」
「ふふ綺麗でしょ?」
「はい、俺の世界での楽器は単音が主流でで、こんなに一度に沢山の音を鳴らすという発想が無いんですよ」
「へぇーそうなの?じゃあこちらの音楽の感想は?」
「とても・・・美しいです」
共通する音を持っているのだが、それぞれがまったく異なる音を持っていて。
音と音が絡み合い融合し・・・また別の、一つの音に生まれ変わる。
なんて素晴らしいのだろう。

俺の世界の音楽とは違う。
こんなに華やかな音ではない。
そもそもそんなに楽器の種類は無いしこんなに美しい音が出る楽器は聴いたことが無い。

まぁ、俺自身音楽になどまったく興味が無かったので美しい音楽を奏でる楽器を知らないだけかもしれないが・・・。


「そういえば・・・偶にテレビからこんな感じの音が聞こえてきたような気が・・・」
「多分それはBGMじゃないかな?」
「びーじーえむ?」
「うん。まぁそれはまた別の機会に。今はこの音色に酔いしれてみて」
「はい」












あとがき


因みにこの静礼寺あまねは一夏のアフタクトのヒロイン、菖蒲のお母さんです。










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