誓契

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番外編



お題 リライト
10のちいさな幸せ より

----大好きなケーキ屋さんのケーキ----






「はぁ」
息を吐くと目の前が白く濁る。
最近は深々と冷え、手袋が恋しい。
大丈夫だろうと思ってマフラーもコートも防寒具を一切身に着けてこなかったのでとてつもなく寒い。
せめてもう一枚何か着てくれば良かったと酷く後悔している。

溜息を吐き、手荷物を握りなおす。
ふと横を見るととあるお店の前。
少し逡巡した後その店へ入っていった。




「ただいまー」
玄関でちょっとだけヒールの高いブーツを脱ぎながら声を掛ける。
室内といっても、玄関は全然暖かくない。
「おかえりなさい」
「持ちますよ」
リビングから出てきてぱたぱたと駆け寄ってきた二人に、ふんわりと笑い掛ける。
ひょいと沢山物が入ったビニール袋の一つを持ってくれる。

あぁ、本当に可愛いなぁ。

抱きしめたい衝動に駆られるがそれを我慢してもう片方のブーツを脱いだ。



「いつもありがとう」
「いえ」
「じゃあ、着替えてくるから冷蔵庫に入れておいてくれるかな?あ、ルルのは冷蔵庫の一番上のところに入れてね」
「うんっ」
四角い箱が入ったビニール袋を大事そうに抱えると、一足早くリビングに向かっていたヒュアを追って走る。
ぱたぱたと自分を追ってきたルルに気づくと歩くのを止め、隣に来たら二人並んでリビングに入っていった。




「ふー、今日は寒かった」
パーカーから長い髪の毛を出しながらリビングに入る。
一歩踏み込んだ途端暖かな空気が菊代を包み、ほっとする。
二人の兄弟を探すと、大人しくソファでテレビを見ていたらしく、じっと画面を見つめている。

だがリビングに菊代が入ってくると微かな物音で気付いたのか、こちらに顔を向けて一方は微かに表情を緩め、一方はこれまた嬉しそうに笑顔を浮かべた。
それだけで2人がどれだけ菊代のことを慕っているのか、信頼しているのかが分かる。

「今日はいいもの買ってきたんだよー・・・・あ、見てみて、これ面白いでしょう?」
そう言って冷凍庫から取り出したのは先程ルルに渡した物。
真っ白い箱を開けドライアイスを見つけるとそれを数個、水が入ったコップに入れる。
そのコップを2人に見せると瞳を真ん丸にして驚いた。
「な・・・なな・・・」
「!?!?」

「ふっ・・・・ふふふふふ!吃驚した?」
あまりの2人の驚きように大きな声で笑ってしまった。
興味津々に自分の手の内を見る二人に説明する。
「これは、二酸化炭素って言う空気の成分の一つを固めた物で、水に浸けると白煙を出すの」
「空気の成分?」
「ふふ、空気にも色んな種類があるの。凄いでしょう?あ、触っちゃ駄目ですからね」
テーブルに置き、準備をしようと台所に戻ろうとしたときルルが白煙の中に指を突っ込もうとしていたので注意した。
指を引っ込めるとえへへとはにかみ、またコップを凝視する。

「ちょっと待っててね」

ドライアイスを受けていた部分の紙を取ると現れたのは色鮮やかなアイスケーキ。
赤やピンクの花弁の可愛らしい花の形のチョコに真っ白いクリーム。
それを大き目に切り、2人の目の前に置くと瞳を輝かせた。
自分の分は少し小さめに。
最近良く食べるようになった為か・・・太った。
ちょっとは我慢しないと。
「わー、ケーキだ〜〜!」
「じゃあ、頂こうか」
早く食べたそうな二人を見てくすりと笑みを零す。
早く食べたところを見たい。
「いただきまーす」
「いただきます」
きちんと言ってからスプーンでゆっくりとすく・・・・おうと、アイスにスプーンの先を刺したところで怪訝な表情を浮かべ首を傾げる2人。
やっぱり、兄弟だ。
「・・・かたい・・・ですね?」
つんつんとスプーンでケーキをつつく。
「ふわふわの生地じゃなくてアイスが生地になってるからね」
「アイスが・・・!?」
「アイスって・・・何?」
アイスを食べたことのあるヒュアは瞳を輝かせた。
無表情に近いが、微かに口角が上がり目が見開かれる。
ヒュアは甘いものが大好きだ。

一方はアイスを食べたことのないので首を傾げる。
「冷たいお菓子だよ。どうぞ召し上がれ」
「う、うん」
時間が経ち少し軟らかくなったアイスを掬い、ヒュアをちらりと見るとそれを口に含む。
「ん〜〜っ、お、おいしい〜〜っ」
初めは驚き、そして、疑問、満面の笑みを浮かべた。
ケーキの欠片を食べ、率直な感想を言う。
そして、気に入ったのか次々と口に運ぶ。
「ヒュア君の世界にもケーキってあるの?」
「はい、でもこんなに色鮮やかなのは年に一度程度・・・。クリームなんてありませんし」
「へぇ〜じゃあ生地だけなんだ?」
「はい、それか甘い果物を添える程度ですね」
「・・・菊代さまっ、これ・・・なに?」
親しげに会話する二人をスプーンをしゃぶったまま眺めていたルルは何故か嫌な感じがして菊代に話し掛ける。
隣に座るルルのちょっと慌てた様子に気づくことも無く『これ』を見る。
それは、ピンクの花びらの形をしたチョコレートだった。
「これはチョコだよ」
「チョコ・・・・・・あれ?」
「・・・チョコ?」
チョコレートを食べたことがあるヒュアはびっくりして自分のケーキにもある紅い花弁のチョコレートを見る。
言いたい事が手に取るように分かる菊代はくすくすを笑いながら説明する。
「チョコは色んな色、形があるんだよ」
「・・・あ!本当だ!チョコだっ」
「・・・凄い綺麗ですね」
「ふふ、気に入ってくれたかな?」
「はい」
「うんっ」
目元を微かに赤らめて頷く。
口の端にアイスを付けながら何度も頷く。

やっぱり買って来て良かったと菊代は実感した。










あとがき

時期的には・・・34話あたり・・・ですかね?
仲良くなってきた頃ですね。
寒い日に、暖かい部屋でアイスを食べるって・・・贅沢なことですよね〜(笑





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