深紅に染まりしはの籠











第五十三話



※酷く残虐なシーンがあります。読んでからの苦情は一切受け付けません。



























「こんなことを企むなんて侍女失格ですね。あぁ、そういえば貴方とこの娘は主従の関係にありながら仲が宜しかったようで」
「ぎ・・・ぎゃああ!お、おおお許しを!お許しをぉおお!!」
「親しい人がこんな風にされるのは・・・さぞかし辛いだろうねぇ」
「ぎゃああああああ!!」
「ほら、目を逸らしちゃ駄目だよ」

グリューラの腹部に剣を突き刺したまま手を離し菊代に近づく。
柄の部分が真っ先に床に着き無粋な音を立てる。
穂先の部分は未だにグリューラの体に突き刺さっており、重みでゆっくりと下に切り込みを入れていく。
肉がゆっくりと引き裂かれていく痛みと刃が下がり肉が引き攣る痛みとで泣き叫び暴れるが剣が抜けることは無い。


クェルは菊代に近づく。
いつの間にか頭を覆っていた布は無くなり、白い髪の毛が肩や背に流れている。
徐に髪の毛を1束掴むと強く引っ張り、痛みで悶えるグリューラの前に連れてくるとその場に寝転がし頭を踏みつける。
「うっ!」
硬い石と靴底に挟まれて頭が痛む。

顔の向きを固定されて醜い形相のグリューラから視線を外すことはできなくなった。


「さぁ、その美しい瞳にしっかりと焼き付けるんだよ」
「い・・・いや・・・いや・・・」


自分を助けてくれようとしたせいで・・・彼女も酷い仕打ちに。
自分のせいで、自分のせいで・・・。


自分のせいで・・・・。





「アマン・ド・スィ・ガラドルノード」

ふおんと菊代の体を中心に複雑な文様が入り乱れびっしりと描かれている魔方陣のような物が花開くように展開される。
仄かに光を発するそれは息を呑むほど美しい。

菊代の頭から足を上げるとグリューラに近づく。
クェルが背を向けた途端体を捩ろうと力を入れたが・・・。


(は・・・入らない)


力を入れてるはずなのに、腕を、足を動かす前にどこかにその力が流れていってしまう感覚。
茫然として視線だけ下に向けた。

・・・これのせいか。


唇を噛み、どこに視線をやっても視界にグリューラが入るのに絶望した。



グリューラの腹に刺さったままの剣を掴むとずるりと引き抜く。
穂先と腹の間に赤い糸を紡ぐ。

蠢く指を見つめ、掌を押さえて動かなくさせると人差し指を・・・切断した。
途端に物凄い音量の叫び声が響いてびりびりと肌で、体で感じる。

勢い良く吹き出る血。
真っ赤に染まった指を拾うとぽいっと投げる。

視線のすぐそこに落ちる。
切断面から血が溢れ、広がる。


「いや・・・ぁ・・・」
「お・・・・おおおっ・・・お前のせいで!おおっおま!おまっをっ!たすけよぅとしたせいでぇぇええええ!」

理性を失った彼女は目を見開き、涎をだらだらと垂らし高潔な彼女の面影は最早無い。


お前のせいで。


お前のせいで。




がんがんと大きな音で何度も繰り返されるその言葉。


「いいね、実に良い」
「ひ・・・?・・・い・・・やめええええ!・・・ぎゃああああああああ!ふゅりゅぃいいいいいいいぎいいいああああ!!」

血で真赤に染まった剣を捨てると壁に掛けてあった他の剣を手に取る。
それは短く、柄に見事な装飾が施された短剣だ。

短剣の切先を額に浅く刺すとゆっくりと、痛みと恐怖と絶望を煽るように下に引いてゆく。

「い・・・いぃ・・・・ぉぇっ!」
傷口から色んな物が見えて、あまりの悍ましさにこういうモノに耐性がついていた菊代でさえ胃の中の物を吐き出す。
といっても殆ど食事を摂っていない菊代。
少量の食物と大量の胃液が、動くことはできないのでそのまま吐き出され口の中から溢れた吐瀉物が頬を伝い、気持ち悪かったがそんなことを気にしていられる状況ではなかった。

口の中に溜まった吐瀉物を吐き出すと、厭らしいものを見る目でクェルが菊代を見る。


「・・・二度目ですか。吐くのは臭いんでやめなさいってあれほど言ったで・・・・・しょう?」

すっと真上に足を上げると思いっきり下に下ろす。
嫌な音が脳天に響いた。

「うっ!ぐっ・・・・・」

「あぁ・・・そうだ。これにはあまり強い術を掛けていなかったんだ。そろそろ終わりかな?」
「ふ・・・ふひぃっ・・・ひひひ」

白目でびくんびくんと体が痙攣しているその様は酷く怖ろしい。
顔を真っ二つに裂かれた為上手く喋れないのだろう、意味の分からない言葉が漏れる。
上唇の辺りまで切り裂かれ舌が口からでろんと出て、涎と血と得体の知れない液体が混じったものが滴り落ちる。

とん、と耳の付け根に刺しそれが下に落ちても反応が無い。
狂ったように笑い声のような物を口から洩らすだけ。

「つまらん」

そう言うと今度は床に捨ててあった先ほどの剣を持ち、冷めた目でグリューラの腹を横に裂いた。

どっとと血が溢れて斬り口が開き今にも上と下が千切れそうな状態に。
内臓が溢れて零れ落ち骨なども見える。




「い・・・いやああああああああああああああああ!」

到底助からなさそうなグリューラの状態。
彼女の瞳には光が宿っていなかった。

そして菊代の瞳からは滂沱の涙が溢れた。














「次は君だ」

グリューラの血で汚れた剣を放ると狂ったように叫び続ける菊代に目を向け満面の笑みを浮かべる。
壁から幅広の短剣を掴むと、菊代の太ももあたりに馬乗りになる。
瞳はクェルを見ていなく、屍となった侍女を見て泣き叫ぶ。

予想以上の効果に身が震えるほどの歓喜を味わう。
久しぶりに味わった痺れる喜びを全身で感じながら勢い良く腕を振り上げる。

深々と突き刺さったが、こちらを見てくれない。
そして何の反応も示さない。
泣き叫び身を捩っているのはあの汚らしくなったモノの為。

そこでこの喜悦が独り善がりなことを知った。




いやだ。





つまらない。
いやだ。

わたしを見ておびえて。
震えて。
畏怖して。

私で泣き叫んで。


愛しい母が兄弟の誰かにかまっていて取られたような感覚。
そんな古い感情に似た物を抱えたまま刃を抜き取る。

血が溢れ、辺りに広がる。
でも見てくれない。



ワタシガソンザイシナイカノヨウニフルマウ。


「駄目だ、だめだ、だめだよ」


あんな一介の侍女なんかに・・・。


他の存在なんか感じないで。




わたしだけを感じて。







もう一度振り上げたとき、地下の入り口が物凄い光で包まれ一瞬の後、地下室もその光に満たされた。
クェルは腕を下ろす瞬間で光に呑まれ、意識を失った。
剣は菊代に刺さることなく、音も無く石畳の上に落ちた。








深紅に染まりしはの籠 完



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